相続 贈与と贈与税 贈与契約とは贈与者が財産を無償で受贈者に与える意思表示をして受諾する片務契約・諾成契約である。 書面によらない贈与は履行前であればいつでも取り消し可能だが、履行後は取り消すことはできない。書面による贈与は履行前後を問わず取り消すことはできない。 贈与者は善意であれば目的物の瑕疵についての担保責任を負わない(負担付贈与を除く) 特殊の贈与 ・定期贈与:定期の給付を目的とする贈与。定期金に関する権利に対して贈与税が課税 ・負担付贈与:贈与財産の価額から負担額を控除した価額に対して贈与税が課税 *贈与財産の価額は原則相続税評価額であるが、上場株式や土地建物等は通常の取引価格である。 ・死因贈与:贈与者の死亡により効力を生じる。相続税の課税対象となり、贈与税は課税されない。 贈与税の対象となる贈与 ・個人から個人は贈与税 ・法人から個人は所得税(一時所得・給与所得) ・個人・法人は法人税 納税義務者:納税義務者の住所地、日本国籍の有無により課税範囲が異なる 課税財産 ・本来の贈与財産 ・みなし贈与財産 ①保険金:負担者以外の者が保険金を受け取った場合 ➁定期金: ③低額譲渡:上場株式・土地建物等の場合は通常価額と譲渡価額の差額 上記以外は相続税評価が買うと譲渡価額の差額 ④債務免除 非課税財産 ① 法人から贈与を受けた財産(所得税の対象) ② 扶養義務者からの生活費、教育費 ③ 社交上の香典、贈答、見舞い、祝物 ④ 相続開始年に贈与を受けた財産(相続税の対象) ⑤ 財産分与請求権に基づく分与財産 ⑥ 特定贈与信託(特定障害者扶養信託契約)に基づく信託受益権 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度 ・非課税限度額 ① 住宅用家屋の取得額または費用に含まれる消費税の税率が10%である場合 ② 上記以外の場合、個人間売買により中古住宅を取得した場合 *暦年課税と相続時精算課税制度のいずれの場合でも適用でき、暦年課税の基礎控除110万円や相続時精算課税制度の特別控除額2500万円と併用可。 非課税とされた金額は贈与後3年以内に贈与者が死亡しても相続税の課税価格に加算されない。 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置 受贈者(30歳未満)の教育資金に充てた場合、1500万円まで 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置 受贈者(20歳以上50歳未満)への資金提供には1000万円(結婚費用は300万)まで 土地の利用に関する権利 ・使用貸借:無償で土地を貸す契約であり、借り手に対して贈与税はかからない ・賃貸借:賃貸借契約や地上権設定契約にもかかわらず、権利金の授受がなければ借地人に贈与税が課せられる。 贈与税は、財産の価額か基礎控除(110万円)を差し引き、その残額に税率(10%~55%の8段階)を乗じる。 同一年度中に特例贈与財産または一般贈与財産のいずれか一方のみ贈与を受けた場合 ① 特例贈与財産の価額-配偶者控除額-基礎控除 ② 控除後の課税価格×特例贈与財産に係る税率-控除額 同一年度中に両方の贈与を受けた場合 配偶者控除:配偶者から居住用不動産(土地のみでも可)または居住用不動産の購入資金の贈与を受けた場合、基礎控除とは別に最高2000万円を控除できる。 *贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合でも相続税に加算されない。 申告期限までに金銭一括納付を原則とするが、一定要件のもと延納(最高5年の分納)も認められる。物納は認められない。 相続時精算課税制度 60歳以上の父母または祖父母から贈与を受けた20歳以上の受贈者は暦年課税制度に代えて、こちらの適用との選択可能。特定贈与者からの贈与時に贈与税(特別控除額2500万円、税率20%)を支払い、相続時にその贈与時に贈与財産と相続財産を合計した価額を課税価格として計算した相続税額から、既に納付した本制度における贈与税額を控除した額をもって納付。 相続税の計算:特定贈与者の相続時に、それまで本制度による贈与財産を贈与時の価額により相続税の課税価格に加算して計算。なお、この際、既に支払った贈与税額は相続税額より控除することができ、控除しきれない贈与税は還付される。 *相続財産を所得しなかった場合でも本制度の適用を受けた財産については相続税の課税対象となる。 相続と法律 親族とは6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいう。直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務あり。親子関係は養子縁組によっても発生する。養子は養親の嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子)の身分を取得する。特別養子縁組では実方の血族との親族関係は終了する 相続人:実子、養子、嫡出子、非嫡出子に順位の差はない。相続開始の胎児も相続人になる *相続人になれない:相続開始前に死亡した人、欠格事由の該当者、推定相続人から廃除された人、相続放棄した人 相続分:共同相続人が相続財産を相続する割合 ・法定相続分 ・代襲相続分:本来相続人となるべき子または兄弟姉妹が既に死亡している場合、または欠格・廃除により相続権を失っている場合は、その者の子が相続人(代襲相続人)となる(被相続人の孫、曾孫、甥、姪)。相続放棄した者には代襲相続は適用されない。 特別受益:被相続人から遺贈を受けた者、結婚や養子縁組のために贈与を受けている者など(特別受益者)がいる場合、その贈与分を特別受益財産として被相続人の遺産に加えた合計額を相続財産とみなす。その算出額から特別受益額を控除した残額が相続分となる。 寄与分:相続財産から寄与分(労務提供、財産給付、療養看護)を差し引いた金額を相続財産とみなす。 種類 ・単純承認 ・限定承認:積極財産の範囲内で負債を支払い、積極財産を超える消極財産は責任を負わない。相続人全員が家裁へ申述する。 ・相続放棄 遺産分割 ・指定分割:遺言により分割 ・協議分割:共同相続人全員の参加のもと、全員の同意により分割。 *法定代理人と未成年の子が共同相続人である場合、家裁で子の特別代理人を選任 一部のみの遺産分割でも全員が合意すれば成立 調停分割:家裁の調停による 審判分割:調停でも不成立の場合に家裁の審判による 財産分割の方法 ・現物分割 ・換価分割 ・代償分割 *換価分割や代償分割を行う場合に家裁に申述する必要なし 特定の相続人から他の相続人が代償分割により取得した代償財産は相続税の課税対象となる。不動産を交付した場合は、その不動産を時価により譲渡したものとみなし所得税・住民税の課税対象となる。 代償分割の場合に交付する現金を確保する目的で生命保険に加入する場合、自社株や自宅土地建物等の相続財産の多くを取得する者を死亡保険金受取人にして指定する方法がとられる。 遺言・遺留分 遺言とは遺贈者から受遺者への一方的な意思表示による単独行為であり、贈与者と受贈者との合意による死因贈与とは異なる。 15歳以上の意思能力を有するものであれば作成でき、遺言により非嫡出子を認知することができる。一部遺言も可能。 種類 ・自筆証書遺言 ・公正証書遺言 ・秘密証書遺言 *未成年者、推定相続人、受遺者、その配偶者、直系血族、公証人の配偶者、4親等内の親族は証人になることは不可。 遺留分 被相続人の行う一定の贈与や遺贈に優先する。兄弟姉妹には認められていない。 遺留分減殺請求権と放棄 ・遺留分が侵害されたら認められた遺留分に達するまで贈与や遺贈などを減殺して取り戻すことができる。1年以内に行使しないと消滅する。 ・相続開始前に放棄する場合、家裁の許可が必要となる 成年後見制度 ・法定後見制度:一定の申立て権者からの後見、保佐、補助開始の審判の申立てにより家裁が選任。日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き取り消すことができる。 ・任意後見制度:あらかじめ後見人を選任しておき任意後見契約を公正証書により作成。家裁が任意後見監督人を選任したときから効力が発生。 相続税 相続または遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得した場合に発生。 *所有権移転登記がされていないものでも課税対象 抵当権や質権は対象外 みなし相続財産:生命保険金や退職手当金など課税対象となるもので、相続を放棄した者も受け取れる。 生前贈与加算 ・相続開始前3年以内に贈与を受けた財産 ・相続時精算課税制度による贈与財産 ・結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置による贈与財産では、死亡時点での残額は相続税の対象。 相続税の非課税財産 ・死亡保険金のうち一定金額=500万円×法定相続分人の数 *相続放棄した者がいても放棄はなかったものとして数に含める 普通養子は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで含められる 特別養子、代襲相続人である普通養子は実子として扱う ・死亡退職金のうち一定金額=500万円×法定相続人の数 ・弔慰金のうち一定金額 ① 死亡が業務上は普通給与×36ヶ月分 ② 死亡が業務外は普通給与×6ヶ月分 ・墓地、墓石、仏壇、仏具 ・公益事業用財産 ・香典 債務控除 ・債務:銀行借入金、不動産未払代金、未払医療費、未払税金、事業用の借入金 *墓地や墓石など生前に非課税財産を買ったときの未払代金、保証債務(主たる債務者が弁済不能のときは控除可)、遺言執行費用、税理士に対する相続税申告費用は控除できない ・葬式費用:葬式、埋葬、火葬、納骨の回送に要した費用、通夜に要した費用、お布施、戒名料、死体の捜索・運搬費用 *香典返戻費用、墓地などの購入費用、法要費用「(初7日、49日)、死体解剖に要した費用は控除できない。 相続税の計算 本来の相続財産とみなし相続財産を把握し、非課税財産を差し引く。債務と葬式費用を差し引く。相続人が相続開始前3年以内暦年贈与により取得した財産や相続時精算課税制度による贈与財産があれば、その贈与財産を加算。これで求めたものを課税価格といい、各人の課税価格を合計したものを課税価格の合計額という。 課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数) を差し引き課税遺産総額を求める。 相続税の総額:各法定相続人の取得金額にそれぞれの税率(10%~55%の8段階)を乗じて求めた各人の相続税の合計額 各人の納付税額:相続税の総額を実際の財産取得割合に応じて按分して各人の算出税額を計算し、各人ごとに一定の加算または控除の調整を行い計算する。 ・相続税額の2割加算:一親等の血族および配偶者以外の場合(兄弟姉妹、代襲相続人でない孫など)が相続した場合、2割相当額を加算。孫養子も対象となる。 ・贈与税額控除 ① 相続開始前3年以内の贈与財産に係る贈与税額 ➁相続時精算課税制度の贈与財産に係る贈与税額 ・配偶者に対する相続税額の軽減:法定相続分又は1億6000万円のいずれか多い金額まで相続又は遺贈により財産を取得しても相続税はかからない ・未成年者控除=(20歳-相続開始時年齢)×10万円 *控除しきれないときは扶養義務者の相続税額から控除できる。 ・障害者控除=(85歳-相続開始年齢)×10万円